JCTA公表の「仮想通貨税務上の諸論点の取扱いに関する見解」まとめ

2019年3月1日、一般社団法人 日本仮想通貨税務協会(JCTA)から「仮想通貨税務上の諸論点の取扱いに関する見解」が示されました。

日本仮想通貨税務協会(JCTA)は、仮想通貨の税務処理について、納税者や税理士にむけて啓蒙活動をしている業界団体です。仮想通貨税務に精通した多くの税理士が加盟しています。

仮想通貨の税務については、国税庁から2018年11月に「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」が公表されていますが、税務実務上の論点の全てを規定している訳ではありません。まだまだ国税庁の見解が明らかになっていない論点も数多く存在するのが現状です。

こうしたことから、今回、3つの税務上の論点について日本仮想通貨税務協会としての見解が示されました。

仮想通貨税務上の諸論点の取扱いに関する見解(PDFファイル)

その内容について紹介していきます。

「仮想通貨税務における諸論点の取扱いに関する見解」の概要

「仮想通貨税務上の諸論点の取扱いに関する見解」は、国税庁から公表されたFAQでは明確化されていない諸論点についての税務上の取扱いの見解を公表することで一定の指針を明確化することを目的とするものです。

そのため、今回見解が示された論点は、税法上の立法趣旨や法務的な観点から検討した結果を公表するものとなっています。

ただし、あくまで税法上明確化されていない論点であり、今後新たな取扱いが公表された際には取扱いが変わる可能性があることには留意が必要です。仮想通貨税務に関する国税庁の最新の動きについては、今後も取り上げていきますので、皆さんも注意しておきましょう。

仮想通貨税務上の3つの論点

 今回の発表では、次の3つの論点について日本仮想通貨税務協会の見解が示されています。いずれの論点も新しい取引形態であり、非常に多くの質問が寄せられる内容についての見解が示されています。

 結論を簡潔にまとめてしまうと、次のようになります。

  1. メインネット移行時のトークンスワップについては、所得として認識しない
  2. NFT(Non-Fungible Token)は、原則として売買や交換の都度、所得を認識する
  3. 1円未満の金額でのマイクロペイメントは、原則として取引の発生の都度、所得を認識する

このように考えられる理由について、発表内容を見ていきます。

メインネットスワップの税金に関する取扱い

メインネットスワップとは仮想通貨がメインネットを始動する際にICOを実施したブロックチェーン(イーサリアムなど)からプロジェクト専用の新しいブロックチェーンへとトークンを移行させることです。

例えば、2018年6月~7月にTRX(トロン)とEOS(イーオス)がメインネットへ移行されました。

移行前は、資金調達のためのイーサリアム上のトークンであったものが、メインネットへの移行に伴い新しい仮想通貨となりました。そこで、メインネット移行に伴い、移行時点で交換取引として所得を認識するか否かの論点が生じます。

所得税法では、所得を収入という形態でとらえていることから、未実現の利得は原則として課税の対象とされないこととされます。(「租税法」金子宏著)

ではメインネットへの移行が所得の実現といえるかがここでの問題となります。

JCTAからは次の見解が示されています。

一般的に、含み損益のある資産を売却した場合には、所得が実現したものとされ、資産の交換は売却に含まれると解されるため、メインネットへの移行においても交換と判断し、所得が実現したと考えることも可能性としては考えられます。

しかし、トークンのメインネットへの移行は、旧通貨から新通貨に強制的に移行されるものと所定の手続きを経て移行されるものがありますが、どちらも保有者の意思とは関係なく移行し、移行させないという選択肢がなく、またICOの段階でメインネットへの移行により旧通貨から新通貨へ変換されることが予定されていることから、移行の前後において事実上の同一性を保持したままであると考えられ、(実質的には名称の変更のみである)当該移行により価値の処分や価値の交換が行われておらず、所得は実現していないものと解すことが妥当と考えられます。

したがって、メインネット移行時のトークンスワップについては、売却を認識せず、新通貨の取得原価は旧通貨の取得価額を引継ぐことが妥当ではないかと考えます。

NFT(Non-Fungible Token)の税金に関する取扱い

NFT(Non-Fungible Token)はFungibility(代替性)がないトークンを言います。ブロックチェーンを用いたゲーム等に使用され、それぞれ固有の値や特徴を持ち(非代替性)ゲーム内外の市場において、キャラクターやアイテムとして取引が行われています。

イーサリアムでは、ERC-721などのNFT規格が生まれており、実際に使用される例も増えてきています。

代表例としては、日本発のゲームであるマイクリプトヒーローズ、猫を交換したり交配できるクリプトキティが挙げられます。

そこで、NFT同士の交換も仮想通貨の交換と同様に、所得を構成する取引であるか否かが論点が生じます。

今回JCTAからは次の見解が示されています。

所得税法では、個人の担税力を増加させる利得はすべて所得を構成すると解されています。NFTそのものが独立して価値を有するものであって、その売買や交換により所得が生じた場合には原則として雑所得として課税されると考えられます。その場合、原則として売買や交換の都度、取引を課税対象として認識する必要があります。

ただし実務上は、NFT同士の交換については交換時のNFTの時価の把握が困難であることも考えられます。合理的な労力を払うことによって交換時の時価が把握できない場合には、課税上弊害がない限り円貨や他の仮想通貨との交換時に取引を認識することも容認されるものと思われます。

なお、所得として認識する際は反復継続して取引を行っているか、営利を目的としているか等の取引内容により譲渡所得、一時所得、雑所得等の所得区分は異なる可能性があります。

マイクロペイメントの課税上の税金に関する取扱い

ここでいうマイクロペイメントとは、1円未満の極小決済を指し、例えば、ブログを閲覧させることにより1円未満の報酬が発生するケース等が挙げられます。

現在急速に広がっていっているビットコインのLightning Networkなどの技術により、0.00000001BTC(1satoshi)というようなマイクロペイメントが実際に使用できるようになってきています。1BTCが40万円の場合には、1satoshi=0.04円決済となります。

マイクロペイメントを実際に利用しているユーザや開発者からよく聞くのは、1円未満の決済なら税金は必要になるんだろうか?という疑問です。もし課税対象となるならば、どのように計算したら良いのでしょうか。

1円未満の端数の処理については税法に規定がない場合が多く、その場合は納税者の有利となるような処理が容認されています。(収入金額の場合は最終計算結果を切捨て、減価償却費の場合は切上げ等)それでは個々の取引が1円未満であった場合、そのすべてについて発生の都度端数処理を行い、合計で所得を0円とすることは認められるのでしょうか。

JCTAからは次の見解が示されています。

結果としてこれは認められません。端数処理をどのように行うか、税法上の規定がない場合には課税上弊害のない限り納税者有利となるように運用されていますが、1円未満の取引から生ずる所得であっても、所得が発生していることに変わりはなく、取引の都度端数処理を行ってしまった場合には所得金額の計算を正しく行うことができなくなってしまいます。

したがって、1円未満の金額による取引についても、原則として取引の発生の都度、課税対象として取引を認識すべきこととなりますが、実務上の負荷を考慮して、一定の期間にまとめて認識することも課税上弊害のない限り認められるものと考えられます。

仮想通貨税務上の諸論点の取扱いに関する見解(PDFファイル)

仮想通貨の税金計算をするためには?

今回の記事では、JCTAから公表された「仮想通貨税務上の諸論点の取扱いに関する見解」について紹介してきました。

仮想通貨では日々新たな技術が生まれ、新しい取引形態が生まれています。今回取り上げられた論点は、多くの方にとって税金の処理に困るポイントであったため、参考になったのではないでしょうか。

今回のJCTAの見解を参考に、仮想通貨の損益計算ソフトGtaxなどの計算ソフトを利用して早めに自分の所得を把握し、確定申告の準備をすることをおすすめしています。

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