2019年の5月にPoloniex(ポロニエックス)で発生したデフォルト(債務不履行)によって、BTCをレンディングにより貸し付けていたユーザーが損失を被ることになりました。それに対し、8月13日にPoloniexが、被害を受けたユーザーに対して損失の補填内容を公表しました。今回は損失に対する補填の税務上の取扱いについて解説していきます。
目次
Poloniexでデフォルトが発生
2019年5月にアメリカの仮想通貨取引所Poloniexにてデフォルト(債務不履行)が発生しました。借り手側の資産状況の悪化により、返済が行なわれず、ユーザーの貸出資産が一律で16.202%減らされる事になりました。
Poloniexの損失を補填に関する公表
2019年8月13日にPoloniexが、取引手数料を損失の補填に充てる施策を実施すると公表しました。
デフォルトによって被害にあったユーザーは、取引手数料を支払うたびに、支払った手数料がBTCに換算され、その日のうちに支払われると言う形で補填に充てられます。また、今年の6月6日以降に支払ったすべての取引手数料はBTCに換算され、払い戻されます。この補填は今回のデフォルトによって損失したBTCの額に達するまで行われます。
今回の事例で確認しておきたい税務上のポイント
Poloniexから公表されたようにデフォルトによって被害を受けたユーザーは、これから支払う取引手数料がBTCで払い戻されるという形で、損失した分のBTCがすべて補填されることになります。今回のデフォルトによる損失と補填の内容で確認しておきたい税務上のポイントは以下の2点です。
- デフォルトにより減少した暗号資産(仮想通貨)に対する税務上の取扱いとしては損失にはならない
- 損失の補填として返済されるBTCは利益認識しない
これからデフォルトによって生じた損失に関する取扱いと補填されるBTCに関する取扱いを順番に解説していきます。
Poloniexのデフォルトで生じた損失に関する税務上の取扱い
所得税法上の資産損失の取扱い
まず、所得税法上の資産損失の取扱いについて確認していきましょう。
所得税法では、事業を行う上で生じた貸付金等の債権の一部または全部が、何らかの理由により回収ができなくなった場合には、その貸倒れにより発生した損失は事業所得の必要経費に算入することができます。(所得税法51条2項)
一方で仮想通貨取引など、発生する所得が雑所得に区分される業務を行う際に生じた資産の損失の金額は、その損失が生じた年度の雑所得の金額を限度として、必要経費に算入することが規程されています。
(参照 所得税法51条)
ここで、Poloniexで発生したレンディングにより貸し付けていた暗号資産(仮想通貨)の強制損失の取扱いについて上の税法上の取扱いに当てはめてみましょう。
Poloniexでのレンディング取引により生じた収益は、暗号資産(仮想通貨)取引に該当するため、原則として雑所得として認識します。そのため、レンディングにより貸し付けていた暗号資産(仮想通貨)が貸倒損失の要件を満たした場合には、雑所得の金額を限度として、当該損失を必要経費に算入できることとなります。
貸倒損失の要件
では次に、今回の案件が貸倒損失の要件を満たすか否かについて見てみましょう。
まず、税務上では貸付に対する債権が貸倒れたとして認められるためには、一定の要件が必要となります。大きく分けて以下の2つの要件のいずれかが求められます。
- 法律上の貸倒
会社が倒産した場合等、法的に貸し付けていた債権の切り捨てが決定した場合や、債務者の債務超過の状態が相当期間帰属し、弁済を受けることができないと認められる場合において、債務者に対し債務免除額を書面により通知した場合、またはそれに準ずる場合 - 事実上の貸倒
債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合
それでは、実際のPoloniexの件に当てはめてみましょう。
上記のように、貸付債権の切り捨ては決定されておらず、弁済を受けることができないとは認められないため上記の①法律上の貸倒には該当しません。
また、②事実条の貸倒については、債権全額の回収ができないことが条件となっているため、今回の件ではこちらも該当しません。
結果として、減少した暗号資産(仮想通貨)に対する税務上の取扱いとしては損失にはなりません。
これまでは減少した暗号資産(仮想通貨)に対する税務上の取扱いについて記載してきましたが、次に、その補填に対する税務上の取扱いについて記載していきます。
Poloniexが実施する補填に関する税務上の取扱い
Poloniexが公表した補填内容
上でも記載しましたが、2019年8月13日にPoloniex(ポロニエックス)が、取引手数料を損失の補填に充てる施策を実施すると公表しました。
こちらは、日頃の取引により支払った取引手数料(BTC換算額)をデフォルトによって損失したBTCの額に達するまで、これからPoloniexから支払われることになります。
Poloniexから公表された補填内容の本文はこちら
Poloniexから支払われるBTC(ビットコイン)の税務上の取扱い
このPoloniexから支払われることになるBTCは、新たに付与されるというわけではなく、実質的には、もともとレンディングにより貸し付けていたBTCがPoloniexから返済されたということと考えられます。そのため税務上は、返済されたBTCを時価により利益として認識する必要はなく、貸付債権を減少させるのみでその取引からは損益は発生しないこととなります。
リスクを十分に理解した上でレンディングを行いましょう
仮想通貨のレンディングは預けているだけで高い金利を得ることができる一方で、預けた資産が返ってこないリスクもあります。今回の事例では、減少した資産の補填がされますが、取引所が破綻してしまうようなケースでは預けた資産が戻ってこない可能性もあります。仮想通貨取引はリスクをしっかりと理解した上で行いましょう。
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株式会社Aerial partners 事業部長 / 公認会計士・税理士
監査法人でデューデリジェンス、原価計算導入コンサルなどの業務を中心に従事。また、証券会社の監査チームの主査として、分別管理に関する検証業務も行う。暗号資産事業者に対する経理支援を行っており、暗号資産会計・税務の知見に明るい。