【どうなる?暗号資産・仮想通貨の税制】JVCEA「2020年度税制改正要望書」提出

暗号資産(仮想通貨)取引所を会員として構成される一般社団法人日本暗号資産(仮想通貨)交換業協会(JVCEA)は、金融庁に対して「2020年度税制改正要望書」を提出した旨、2019年7月22日に公表しました。

金融商品取引法(金商法)等における暗号資産(仮想通貨)関連の改正を受け、暗号資産(仮想通貨)にかかる税金の取扱いの改正について要望しています。

個人投資家にとって、税制上大きなメリットとなりうる要望内容となっています。

要望書の要点

  • 申告分離課税の適用
    • 暗号資産(仮想通貨)のデリバティブ取引・現物取引に申告分離課税を適用し、税率は20%とすること。
  • 損益通算・繰越控除の適用
    • 損失が出た場合に他の所得と相殺できる「損益通算」や、損失を3年間繰り越せる「繰越控除」を認めること。
  • 少額非課税制度の導入
    • 少額の決済利用における所得については課税対象から外す「少額非課税制度」を検討すること。

申告分離課税の適用

JVCEAは、暗号資産(仮想通貨)のデリバティブ取引・現物取引にも申告分離課税を適用し、税率は20%(所得税15%、住民税5%)とするように強く要望しています。

金商法改正により、暗号資産(仮想通貨)は金融商品の1つとして認められ、暗号資産(仮想通貨)関連デリバティブ取引は金商法上のデリバティブ取引として位置づけられました。

申告分離課税は、他の所得とは分離して税額を計算し、確定申告によりその税額を納める制度です。同じ金商法下で規制されている株式等の取引や外国為替証拠金取引(FX取引)について適用され、税率は20%となっています。

JVCEAは、同じように金商法で規制されている株式やFX取引に20%(所得税15%、住民税5%)の申告分離課税を適用する一方で、暗号資産(仮想通貨)取引を雑所得として扱い、最高55%(所得税45%、住民税10%)もの税率をかけることは、税の公平・中立・簡素の原則のうち特に「中立」を損ねることを提案の理由としてあげています。

<所得税の速算表>

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

(国税庁HPより)

また、現物取引よりもデリバティブ取引を税制上優遇すると投機色を強めることとなるとし、ブロックチェーンという新しい技術を活用した経済インフラを育成する観点から、本来は現物取引をデリバティブ取引よりも優遇することが適切であることを指摘しています。

個人が暗号資産(仮想通貨)の利用や投資を断念する大きな要因として、暗号資産(仮想通貨)にかかる税率の高さが挙げられます。申告分離課税が採用され、税率が20%とされれば、暗号資産(仮想通貨)の利用者の拡大が見込まれるでしょう。

損益通算・繰越控除の適用

JVCEAは、申告分離課税とした上で、損失が出た場合に他の所得と相殺できる「損益通算」や、損失を3年間繰り越せる「繰越控除」を認めるよう強く要望しています。

現状、暗号資産(仮想通貨)取引による利益は現物デリバティブ取引ともに雑所得扱いとなるために、損益通算・繰越控除ともに認められていません。

一方、 金融商品デリバティブ取引では、損益通算、3年間の繰越控除が制度として認められています。

金商法改正により、暗号資産(仮想通貨)が金融商品の一つとして認められるとともに、暗号資産(仮想通貨)関連デリバティブ取引も同じ金商法下に置かれることから、税の中立性の原則にしたがって、他の金融商品デリバティブ取引と同様に他の損失との損益通算や繰越控除を認めるよう要望しているものです。

これらが認められれば、暗号資産(仮想通貨)取引で発生した損失を他の所得と相殺したり、損失を3年間繰り越して翌年以降の利益と相殺できることになり、税金対策の選択肢が大きく広がることになります。暗号資産(仮想通貨)ユーザーにとって、税務上大きなメリットをもたらす内容となっています。

少額非課税制度の導入

要望書では、少額の決済利用における所得については課税対象から外す「少額非課税制度」を検討するように求めています。

ドルやユーロなどの外国通貨では、決済による利益を雑所得として認識し申告する義務があります。しかし、こうした課税関係については一般にあまり認識されておらず、事実上制度が形骸化していることを指摘しています。

暗号資産(仮想通貨)についても外国通貨と同様の扱いとすると、申告の実効性が伴わず税負担の公平性が損なわれることになりかねません。

申告分離課税や損益通算・繰越控除に関して「強く要望」している一方で、少額非課税制度については「検討する必要がある」という表現となっており、一段落ち着いた要望となっています。

少額非課税制度は、その実施方法について今後も引き続き議論されていくと考えられるでしょう。

なお、要望書では、少額非課税制度を導入する具体的な方法についても触れています。主に利用する取引所から暗号資産(仮想通貨)を引き出すときに、源泉徴収を行い課税することで、個人が決済するときに生じる利益については、課税対象としない方法を例示しています。

これが実現すれば、決済時に税金のことを気にせずに暗号資産(仮想通貨)を利用することができ、支払手段としての利用が拡大することが想定されます。

暗号資産投資におけるエンジェル税制

そのほか、暗号資産を用いた地域振興プロジェクトやスタートアップのベンチャー企業、クリエイターを支援するプロジェクトについて、 未公開企業の株式への投資と同じように「エンジェル税制」を設けることを要望しています。

国内の有望なプロジェクトを育成する趣旨から出た要望となっています。

ICO・STOに関する要望

金商法改正により、金商法下で扱われることとなった電子記録移転権利(STO)は、会計上は資本取引に属するものと解釈され、発行による調達額は課税対象になりません。

一方で、ICOによる暗号資産(仮想通貨)の発行では、会計上、販売による収入を得たものとみなされます。法人税法においても収入を得たものとして課税対象として扱われています。

しかし、実際にはICOにより調達した資金はプロジェクトの開発に費やされることがほとんどであることから、資本取引とみなして課税対象としないことをJVCEAは求めています。

ICOによる暗号資産(仮想通貨)の発行者は、発行により得た資金をプロジェクトの進展のために投下することができるようになり、開発が活性化することが見込まれます。

資金決済法の改正によりICOの取扱いが明確化されたことに伴い、暗号資産(仮想通貨)を新たな資金調達手段として発展させていきたい業界の意思が読み取れます。

税制改正の流れ

JVCEAから金融庁への要望書の提出を受けて、税制改正に向けて今後どのような流れになっていくのでしょうか。

今回、暗号資産(仮想通貨)交換業者の業界団体であるJVCEAから金融庁に要望書が提出されました。業界の発展のための政策要望として、非常に注目される動きといえます。

金融庁で要望内容を吟味した後、必要と判断された事項は、各省庁から提出される「税制改正の要望」に盛り込まれます。

その後、毎年12月に閣議決定を行う「税制改正の大綱」に盛り込まれば、その後所得税法等の関連法令が改正され、翌年度以降に実際の制度として施行されることになります。

今回の要望書の内容は、最短で来年度の確定申告から適用されるものと考えられます。

現段階ではまだ実際の税制改正に盛り込まれる事項が決まったわけではありません。しかし、仮想通貨関連法案の付帯決議で言及されている暗号資産(仮想通貨)に対する課税のあり方や、ICOの会計処理に関する内容であることから、政府としても真摯に検討する必要がある項目が論点となっています。JVCEAによる要望書の提出は、税制改正のスタートラインといえるでしょう。

仮想通貨関連法案の付帯決議 ICOの会計処理のあり方等を検討

2019年6月24日

暗号資産(仮想通貨)を投機だけではなく、決済や資金調達などの用途で活用できるようにしていくことについて、業界の意思を強く表明した内容となった要望書。業界からの要望を受けての今後の国の動向に注視していきましょう。

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