7月21日に東京大学で開催された「HashHub Conference 2018」のパネル・ディスカッション「規制と税制が日本の暗号通貨業界に与える影響」に代表沼澤が登壇しました。
「HashHub Conference 2018」は、暗号通貨・ブロックチェーン領域のコワーキングスペースを運営する株式会社HashHubが開催したイベントです。
パネルディスカッションはモデレーターの後藤あつし氏による進行のもと、4人の暗号通貨業界の専門家が登壇。
仮想通貨への知見が豊富な斎藤創弁護士(創法律事務所)、Mt.GOX事件時に金融庁へ出向していた経験がある長瀨威志弁護士(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)、「ブロックチェーン会計士」こと柿澤仁氏、株式会社Aerial Partners代表取締役の沼澤健人で日本の暗号通貨業界の課題とこれからをディスカッションしました。
今回はその様子をレポートします。
目次
仮想通貨の税務会計に関する規制の状況
まず後藤氏から、日本の仮想通貨税制には、次のような問題があるとの指摘がありました。
(1)交換の都度、実現損益と税額計算をする困難性
(2)仮想通貨間の交換も課税対象
(3)累進課税、損失繰り延べができない
(4)補足面で課税の公平性
国内の会計税務の状況について、沼澤氏コメント>
日本の仮想通貨ビジネスが縮小する懸念
柿澤氏コメント>
仮想通貨に関する税制や法規制にはビジネスセンスが足りず、マネーを取り込むという発想が少ない点が致命的である。
日本でICOが出てこなくなって市場シェアも小さくなってきている一方で、アメリカでは強い規制をいれつつも、世界最大のICO市場となっており、対象的な状況になっている。
日本は規制が決まっているという点では有利なので、いまどう巻き返しを図るかを考えないといけない。
でないと、あっという間に日本でブロックチェーンプロジェクトがなくなるのではないかという危機感を持っている。
ICOが止まっている日本の規制
日本では「資金決済に関する法律(改正資金決済法)」によって仮想通貨を定義し、仮想通貨交換業を登録制として規制しています。
日本のICOについて、後藤氏から指摘。
(1)ICOで巨額を集めることと規制を緩めていくことが妥当なのか?
(2)ICOが有価証券となったとき、厳しい規制にしていくべきなのか?
投資商品になって、ペイメントなどの機能が制限されるのではないか?という懸念について問題提起がありました。
これを受けて自主規制の可能性を、長瀬氏コメント>
例えば、いいICOってなんだろう?という問いに答えられるプロジェクトがほとんどない点が問題として挙げられる。既存の資金調達手法に課題もあったのでICOに資金が流れているという面もある。
ICOの変化に合わせて、規制も柔軟に対応していくべきなので、自主規制で考えていくのが妥当と個人的には考えている。
また、ICOの仲介をしているような事業者に関する規制について、斎藤氏コメント>
詐欺的なICOの多さの課題
詐欺的なICOが多いとの指摘について、柿澤氏コメント>
ICOプロジェクトの多くはVCすらも判断できない前段階で資金調達しているので、それに投資する側のリテラシーが十分なのか疑問がある。
一方で、投資家保護の観点から騙されるのが悪いとも言えない。
海外ではICOで富裕層向けにプライベートセール、プレセールを行い、一般投資家向けのパブリックセールを実施せずに終わりというプロジェクトとして展開することがほとんどになってきている。
市場としては健全化しているともいえるが、従来の株式による資金調達でもよかったのではという疑問もある。
金融庁主導の仮想通貨交換業者規制でビジネスが育っていくのか
後藤氏から、規制をリードする金融庁について次のような現状の紹介がありました。
(1)金融庁が求める管理レベルが高度化
(2)“業界育成”から、“金融業として 監督”へスタンス変化
(3)一方で登録待ち企業が増加
ビジネス面について危機感を感じると、柿澤氏コメント>
沼澤氏コメント>
少しでも規制を前向きに変えていこうとするプレーヤーはたくさんいる。フォーカスして磨いていくべきとき、国内から日本を代表とする世界的プロジェクトが出てくることに期待している。
斎藤氏コメント>
業界として巻き返しを図る必要がある。
仮想通貨ビジネスの未来像として、長瀬氏コメント>
今後は、レガシー系の金融機関と、テック系の仮想通貨企業は融合していく世界になっていく。今年は金融規制が全面に出てきているが、だからといって金融系が技術への敬意を忘れてはならず、両者が敬意を払いながら融合していく未来を想定している。
2017年の仮想通貨の高騰を受けて、仮想通貨税務が一気に社会問題となった。
9月に国税庁から出たタックスアンサーで個人投資家へ課税の旨がリリースされ、従うべきガイドラインのようなかたちで12月にQAが提示されると個人投資家に大きな衝撃が走った。同時に、ガイドラインの情報だけでは全国の税理士が仮想通貨による損益を計算するのがほぼ不可能になっている状況があった。
一方、法人の会計周りはASBJから仮想通貨取引所に関して会計基準が明確になってきている。ただし、ICOに関する会計基準などの細かい部分については原理原則にしたがって処理することになっているのが実情。会計税務の部分でブロックチェーンプロジェクトから相談を受けることも多いが、実務の現場からあるべき開示の方法や会計処理の方法を世間に訴えかけることが大事だと思っている。開示や会計処理に関する自分たちの考えを積極的に発信していくフェーズではないか。
今後、分離課税にする、税率下げるといったダイナミックな改正を行う前に、仮想通貨の利用に関する少額決済の除外など変えやすいところから順番に制度を前向きに変えることから始めていく。